今回は前歯のセラミックについてお話ししようかと思います。

前歯は見た目もあるし気になるなぁ
形も揃えたいし歯茎の色も気になる…でもどれか良いの?
そんな悩みがある方向けに記事を書いています。
歯並びは人それぞれ違いますし、色も違います。
オススメ出来る方と、そうでない方もいますので、なるべく分かりやすくお話ししますね。
治療を考えられている方はゆっくりと読んで、内容を理解していってくださればより良い治療を受ける事が出来るかと思います。
この記事を書いている人

複数の医院で働いている歯科医師。
歯科業界に15年以上関わってきた中で、患者さん本位ではない治療方針や業界の治療内容の分かり難さに疑問を持ち、自分自身で情報を発信していく事を決意しました。
患者さんの為に歯科治療の知識、考え方の幅を増やせるように情報を提供し、
より良い治療を自ら選んで受けられるようにサポートするために記事を書いています。
それでは始めます。
※一歯科医師の個人的な見解も含まれていますので、すべてが臨床と一緒とは限りません。
その点はご了承下さい。
前歯のセラミックの治療の流れ

前歯にセラミックを入れる場合、なぜ入れたいかが人によって違うと思いますが、おおよそ2種類かと思います。
前歯の色が気になるので白く綺麗にしたい
前歯が虫歯であったり、欠けてしまったり、被せ物の色が気になっていたり。
色々とあるとは思いますが、まず、被せる歯の神経が残っているのか、いないのかで治療の流れが変わります。
生活歯の場合
歯の神経が残っている場合、浅めに削ってしみない範囲で被せられるかの確認が必要で、
基本的には問題ない事がほとんどなのですが実際に削ってみて、しみる症状が出る可能性もありますし、痛みが出てしまった場合は神経を取る処置を行う可能性などもお話ししないといけません。
こちらも配慮するのですが、たくさん削れば被せ物に厚みが出て強度がしっかりする、色の表現や形の表現がしやすくなるという状況なので、
しみないけれど被せ物も綺麗に見せたい…!
この葛藤の中で治療を行わなければなりません。噛み合わせ上、噛んでいる部分の当たり方も見ないと被せられないので、隙間がほとんどないケースは多く削らないといけないですから神経を取らなければいけない可能性も高くなるかと思います。
特に削ったばかりの頃はしみやすい事も多いのでしばらく様子を見てもらうことも多いです。仮歯の調整でしみ具合を改善する事ができる場合もあるので、心配な時は歯科医師の先生に相談しましょう。
自分の歯を多く削って綺麗にする事に抵抗のある方はラミネートベニアといって見た目の見える表面の部分のみをセラミックにするやり方もあります。しかも適応も限られている+脱離の可能性も高いので、積極的にはオススメしにくいですね。
その場合は綺麗なCR(コンポジットレジン)で修復すると言う手もありますが、それはまた別の機会にお話ししますね。
一般的に前歯をセラミック にする際の大まかな流れをお話しします。
治療の流れ
審美症例は治療前の状況を確認する事も大切なので最初に写真を撮ったり、仮歯の型を取ったりと準備をします。
歯の形をある程度整え仮歯を合わせてしばらく様子を見て頂きます。しみたりしないか、かみ合わせはどうか、形の確認など、様子を見て問題がなければ次回型取りになります。
歯茎の調整が必要なケースはこのタイミングで行うことが多いかと思います。
精密な型を取りますが、この際に色や形などの好みを伝えて頂ければ、最終的な被せ物に反映する事が出来ます。
タイミングとしてはこの時が一番良いので、遠慮せずに伝えて下さい。
出来た物を見て頂き問題なければ合着して終了です。色味や形が気になる場合、選んで頂いた上物の種類の中で、寄せられる範囲であれば修正が可能です。その場合は一度被せ物をお預かりして、後日もう一度となります。噛み合わせや色の具合を確認したい場合はしばらく仮着けする事もあります。
失活歯の場合
失活歯の場合考慮しなければいけない事が多いです。
- 根の具合が丈夫で長持ちしそうかどうか
- 根の先が膿んでいないか
- 歯の変色はどうか
- 歯茎の色はどうか
- 金属の支柱が入っている場合は外せるかどうか
- 噛み合わせはどうか
- 歯周組織に問題がないかどうか
- やり直したとしてどの程度まで審美的に改善できるか
などなど、突き詰めて行くと考えなければならない事が沢山あります。
元々保険治療で前歯を治されていると、神経の処置がされている歯の中には金属で作られた支柱を、その上に金属を使用して表面のみレジンを盛り付けた被せ物で歯を作っている為、金属色を隠す為に重たい色調の表現しかする事が出来ません。
機能的には金属は硬いですししっかりと使えますが、中に差し込んでいる支柱の金属が劣化すると歯の色が黒くなってしまったり、金属アレルギーの原因にもなりかねません。
また、金属の色を歯肉も拾う事もあるので、
歯茎の色が黒く見える
という悩みの原因の一つになってしまいます。
ちなみに、
金属の支柱が入っている場合、そもそも歯を補強する為に金属を使って支柱を立てているので、立てる際に外れないように深く削り込んで固く接着剤で固定しています。
それを審美的に綺麗にしたいので外す、となるとかなり大変な作業になります。
見える所から少しずつ削り込んで取っていかなければならないので、既に歯が薄くなっているような場合ですと破折してしまう可能性もあります。
無理に外せないようなケースもあるので、そこは相談の上、表面の被せ物で工夫して色合いを調整するような状況になりますね。
私としては、口の中の金属は健康の為にも極力避けられるのであれば避けて頂きたいと思っているので、前歯の治療を保険の範囲内で行う場合、根の治療が終了した頃に上物相談をする場合はよく先生と相談していただく事をオススメします。
正直な話、外してやりかえる。という状況は歯に取っても負担ですから、最初から審美的な治療を選択して頂いた方が治療も行いやすいので予後も良くなりやすいかなと思います。
治療の流れ
審美症例は治療前の状況を確認する事も大切なので最初に写真を撮ったり、仮歯の型を取ったりと準備をします。
失活歯の場合、仮歯合わせまで行っておいて、必要があれば支柱を削って外し、根の治療を行います。
状況が落ち着いてから白い支柱に立て直し、仮歯を合わせ直します。歯肉の調整が必要であれば一緒に行います。
歯周外科などを行った場合(歯肉の移植や切除、歯槽骨を削った場合)は数ヶ月仮歯で時間を置いて安定するのを待つ場合もあります。
具合が問題なければ精密な型を取ります。色や形の調整はお願いするならこのタイミングなので相談してください。
失活歯の場合、歯肉の色を気にして被せ物を深めに入れる事も多いので歯肉を糸で避けながら丁寧に型を取ります。
先ほどと同じです。修正があれば改善できる範囲での手直しは可能かと思います。
次は曲がっているのが気になっている方です。
歯並びが曲がっているので被せ物で綺麗にしたい

今度は色よりも見た目を改善したいという場合かと思います。
出ている歯の見た目を引っ込めたい。曲がった歯を揃えたい。
長い、短い歯を調整したいなど。
その希望を叶えられるか確認しないといけませんが、セラミックで被せて見た目を改善する場合
多少の角度の調整はほとんど問題にはなりませんが、大幅に角度を変えるようなことになると設計に無理が出てきます。
その場合は歯に負担が大きくなるので破折してしまったり、歯肉が腫れてしまったりする事があるかも知れません。
角度的には無理がなくても削る量が多いのでそのままではしみて痛みが出る場合もあり、神経の処置が必要なケースもあります。
そのようなリスクがあるにもかかわらず他の医院で歯科医師の説明不足で治療を行った後、何年かして、こんな風になるなんて聞いてない…やめておけば良かった。と後悔していた患者さんもいらっしゃいました。
結局物を被せる、という以上永久に持つものはなかなかありません。手入れの具合によって物の耐久度も変わってきますが、やはり設計に無理がないかどうか、事前に先生と相談をするべきです。
設計に無理がありそうな場合はセラミックで治すのではなく、歯列矯正を検討して頂いたり、セラミックではなく、形態修正やダイレクトボンディング(直接樹脂を接着して対応)で調整出来ないかを考えていきます。
悪い事ばかりではなく、セラミックが適応だった場合は本格的に歯列矯正をした場合は2年前後かかってしまうことも多いですが、セラミックの場合は数ヶ月で治療が終わらせる事が出来たり、治療の来院回数を減らす事もできます。
早く終わることにメリットを感じる方もいらっしゃいますので急いでいる方にはお勧めな治療です。
たまにいらっしゃるのが
結婚式までに綺麗にしたい!写真撮影までになんとかしたい!とギリギリのタイミングで相談に来られる方です。
こちらも大切な予定に間に合わせたいと全力で配慮するのですが、物理的に間に合わない場合もありますので、
セラミック治療で、大切な用事の日程が決まっている人は数ヶ月以上の余裕をもって歯科医院に相談してください。
歯並びもずれていて、審美的に矯正だけでは治しきれないような場合は矯正とセラミック治療を併用して行いますので、そのようなケースは1番時間がかかります。それほど珍しい話しではないのですがやはり費用は高額になりやすいですね。
治療の流れは上記の物とほとんど同じなので割愛します。
被せ物の種類
前歯の場合私がオススメ出来るのは3種類です。
フルジルコニア(ステイニング有り)
ジルコニア単体のみで加工し、表面に着色して色調を揃えるやり方です。
歯科治療において、現在最も強度がある材料で最近は色々と色の種類も増えており一昔前に比べれば格段に綺麗に作れるようになってきています。
前歯の被せ物の中では比較的費用を抑えられる上、物持ちも良いので、色合いに問題がなさそうな方はジルコニアをオススメします。
ただし、合わせる周りの歯に色の癖が強い方は色味を合わせ切れませんので、多少の妥協は必要な材料になっています。
ちなみにジルコニアはトランス(透明感)色の多い、少ないがあるので、材料選びを間違えると色合いが全く合いません。経験の多い先生や、技工士さんとの協力が必要です。
オールセラミッククラウン
キャスタブルセラミックといって、e-maxなど二ケイ酸リチウムを用いて作った被せ物が多いかと思います。それ以外にも、材質はありますが、強度もある程度強く、材料に透明感も出せますので、色合いが軽めで綺麗に見えます。こちらも表面に着色タイプです。
歯の先端の方のエナメル質が透き通っている感じがある方はオススメな材料です。
1〜2本だけ直したいという方は色合わせしやすいかなと思います。
ジルコニアフレームオールセラミッククラウン
一昔前はメタルボンドと言って、金属の上に陶材を盛り付け色を表現していました。その場合はどうしても歯茎の辺りで金属の色を拾いやすく、重たく見える事もありました。
そこで、白い材料のジルコニアをベースに使い、その上に陶材を盛り付けるやり方が現在は主流で、技工士さんが一色一色手作業で盛り付け焼いて作りますので、色の表現も自由度が高く、手前もかかっているので費用も高くなります。その代わり色合いはとても綺麗に仕上がります。周りの合わせる歯に色の癖が強い方は基本的にこの被せ物出ないと、合わせるのは難しいと思います。
三種類を比べると
強度
フルジルコニア>オールセラミッククラウン≧ジルコニアフレームAC
ジルコニアフレームは中のフレーム部分が硬いのですがその上に盛り付けている陶材は強度が弱めな為、噛み合わせが強いと欠けやすい可能性もあります。
費用
ジルコニアフレームAC>オールセラミッククラウン≧フルジルコニア
手間のかかる材料ほど費用も高くなります。この辺りは医院によって前後するかもしれません。
見た目
ジルコニアフレームAC>オールセラミッククラウン≧フルジルコニア
この辺りは歯科医院のこだわりや提携している技工所によって変わってくるかと思いますが、一般的にはこんな感じかと。
まとめ
個人的には、
・前歯の色に癖がない、噛み合わせが安定している→どれでもOK、費用と相談
・噛み合わせが安定していない→フルジルコニア
・色合わせが難しい→ジルコニアフレームオールセラミック
・自分の歯の色がくすんでいて隠す必要がある→フルジルコニアorジルコニアフレームオールセラミック
辺りがおすすめしやすいかなと思います。
細かい部分は歯科医の先生と相談して、どの程度まで審美的に出来そうかは確認された方が良いかと思います。
自費診療の被せ物だからといって全てが色合わせしやすいわけではないですし、高い費用をかけたからといってうまくいかない場合もあるかもしれません。
それは歯科医師の丁寧さと技術力、そこに、印象時の精密さも必要な上、技工士さんの表現力に左右されるからです。
前歯一本の製作はフルオーダーメイドの芸術作品と言えば分かりやすいでしょうか。
やはり良い物を作ろうとするとそれに対するある程度の費用は必要になってくるのかな、と思います。
費用を出して頂ければこちらも削り方、型取りの仕方、材料、技工士さんがかけられる製作時間、材料など全てが変わってきます。
そのあたりは普段の治療でお話しする余裕がある歯科医院はほとんどないと思いますので患者さんは分かりにくいですが、目に見えにくい所で差が生じ、結果も違ってきます。
ですので、基本は信頼出来る先生に丁寧に作ってもらう。
これが一番良いかなと思います。
参考になれば幸いです。
それでは。
他にもセラミックに関してまとめていますので、興味があればご覧ください。


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